本を買うスピードを落としている。2020年はちょっと買いすぎた。冷静になるべきである。我に返る。
「我に返るな! 我を返せ!」
はい!
帰ってくれ! 我!
字が違うけど! もう帰ってくれ!
よーしこれで邪魔な我はいなくなったぞ。これで純粋に客観的に俯瞰的に狂うことができる。
本を買うのをガマンしてはいけない。本は絶版がありえる。本屋になくなってしまう。古書店でも手に入らなくなる。昔、読もう読もうと思っていた教科書、6000円もしないのに、「高いな、3DSのソフト買えるやんけ」と思って買わないでいて、最近買おうと思ったらもう出版社にも在庫がない。重版してくれ! たのむ! と虚空に吠えてももう遅い。電子化してくれ! と言っても医書系版元にはそこまでの体力がなかったりもする。これでもう古典的名著は二度と読めない、逃がした魚はシロナガスクジラだ。その本を読んで参考になったという人々の声が今さら聞こえてくる。「あれはいい本だったよねえ」なんて。もう俺はいい本を読めない。なんてことだ。買っておくべきだった。そのとき読まずとも積んでおけば今読めた。なんてオロカなんだ。メシを抜いてでも本を買っておけばよかった。メシが世の中からなくなることはまずないだろう。本はなくなることがある。優先順位を冷静に、客観的に、俯瞰的に見通しておくべきだった。なぜ躊躇したのか? それは「我」に負けたからだ。「我」の欲求の順序を読み違えたのだ。同じ値段で安易に楽しめるほうを選ぼうとした「我」が間違っていた。我を返しておけばこんなことにはならなかった。
年間の書籍額が150万を超えた。この一行を配偶者に読まれるとさすがに我に返らざるを得ない。だめだ! 我を返せ! もう来るな! なぜ読みもしない全集を買ったのか……いや、だめだ! 帰れ! 我思わない故に本あり。我破れて本棚あり。窮我本を買う。三十六計書店に費やす。