2021年3月1日月曜日

病理の話(509) どう考えてもマニアックでプロの病理医ですら理解していないこともある話

ここにスイカがあります。


スイカです。


切ります。まっぷたつに。ドカッ。横山光輝三国志みたいに。


すると割面(かつめん=切り口)には、種がありますね。




ではこのスイカを、さらに細かく切っていきましょう。食べやすい大きさに。


8等分でも10等分でもいいですよ。


で、切り口がいっぱい出てきますね。そこにある種を数えましょうか。




たとえば10等分に切ったスイカの、切り口のところを全部見て、種を数えたとして。


その数がどれくらいになるかなあ。足したら、200個くらいですかね? だいたい。




ところでそれ、スイカに含まれてる種の数と同じだと思いますか?


違いますよね。


だって、スイカの実の中にうずもれている種があるはずでしょう。


切り口にうっすら見えているやつとかをカウントしたとしてもだ。10等分くらいだと、完全に切り口と切り口の間に入り込んじゃってる種もあると思いますよ。



当たり前ですけれど、「断面でカウント」したって、実際にそこにある種を全部カウントすることはできないんですよね。ただし傾向くらいはわかるけれど


断面にめちゃくちゃ種が多いスイカだったら、きっと実の中に埋もれている種も多いでしょう。それくらいのことは、まあわかる。




で、切り方を変えるとね。たとえば8等分、6等分と、切る数を少なくすればですよ。


そのぶん、数えられる種は減るじゃないですか。


逆に言えば、スイカの種の数をおしはかるためにスイカを切るならば、「鬼のように薄く切ればより正確なカウントはできそう」ってことになります。



でも、あんまり薄く切ると食べられないね。

それに、あまりに切りすぎると、数える種の個数がばくだいになるね。

おまけに、種を真っ二つにしちゃうと、もともと一つの種だったものを2回カウントしてしまうかも……。つまりはミスが増えますね。






さて、以上が、「臓器を切って、プレパラートにして細胞をみる」ときにも起こっていることです。



細胞を観察して、その挙動を推測するとき……たとえば、がん細胞が「リンパ管」と呼ばれるものの中に入っているか、入っていないかを調べようとするとき。


ちゃんと臓器を切らないと、少ない断面だけ見たって、「ただしいカウント」はできませんよねえ。


かといって、あまりに細切れにしすぎても、困ることがあります。種と一緒でね。カウントしすぎ、ということも起こる。


つまり、「適度な分厚さ」に切って、「正確な種の数をカウントできているわけではないけれど、毎回おなじ基準で切れば、切り口を見てだいたい種の数は予想できるよ」ということをやりたい。





わかる? これ、めっっっっっっっちゃくちゃ面倒な話で、ほんとうは統計のことを書かないと説明したことにならないんだけど、スイカの話にしときました。ポピ。それはSuica。