アタッシュケースが届いて、中にはGoProが入っていた。これから1年にわたって、とあるウェブセミナーの講師を担当するのだが、Zoomで撮影すればいいですよね、いいですよ、Zoomで行きましょう、と軽く引き受けたら「カメラはこれを使って下さい。ライトも入れときます。接続チェックも必須です」と、思ったより鼻息が荒い。
PDFで送られてきた接続用マニュアルに従って、職場の私用PCにGoProを接続する。プレゼンを見てもらいたいのに、ぼくの顔をこんなにきちんと撮ってどうするのか。演者の解像度を上げることで営業力が上がるのだろうか。いまいち飲み込めないところはある。しかしそれを飲み込むだけの咽頭力(いんとうりょく)が今のぼくにはある。のどは強くなった。
そういえばふと思ったのだけれど、アタッシュケース? アタッシェケース? どっちが正しい? 検索をかける。
するとなんとレタスクラブのホームページが出てきた。しかもそこに載っていたのはドラミちゃんだ。自分が振り回されていく感覚がある。
https://www.lettuceclub.net/news/article/214655/
なるほど、アタッシェというのはフランス語らしい。大使館・外交使節団で軍事や科学、経済などを担当する専門職員のことを言うのだそうだ。つまり、「アタッシュ」は間違いということになる。知らなかった。
「アタッシェケース」には軍事機密が入っていてほしいなと思うことがある。ちょっとゴツメの鞄の中には分厚い書類や金塊、ボタン類が入っていることがふさわしい。
じわじわと、「我々はなぜアタッシェをアタッシュと言いがちなのか」が気になってくる。まあ我々っていうかぼくが、だけど。
音便? 違うか? 「アタッシュのほうが合ってそうだと日本人(例:ぼく)が思いがちなのはなぜか問題」と読み解かせていただく。
ダッシュ、キャッシュ、ラッシュ、モッシュ、バッシュ、リセッシュ、アンジャッシュ、奪取、摂取、北原白秋。シュで終わる言葉って多いんだよな。それにくらべると、シェで終わる言葉は……。
マルシェ。フランス語だ。
フィナンシェ。これもフランス語だろ。あれイタリアだっけ?
ポルシェ。ドイツ。
クリシェ……フランス語かな。
パティシェ。つい日本語だとぱ・てぃ・し・えと発音してしまうけれどこれもシェ。
フランス語多いな。そして日本人が日常的に使う言葉は、この中にはあまりないような気がする。ポルシェなんて乗れんわ。
「語尾検索エンジン」というのを使ってさらに探す。するとようやく日本語が出てくる。ただし。
うつしえ(移し絵)。だましえ(騙し絵)。みたらしえ(御手洗会)。
シェじゃないじゃないか。
しえしえ(謝謝)は中国語だ。
かしわばらよしえはまあ日本だけどそういうことではない。
日本では「シェ」の語尾があまり一般的ではないのだろう。そもそも、ケースって英語だし。フランス語+英語のセットは余計にしっくりこなくて、本能的に「アタッシュケース」と英語的な読みにしてしまう、なんてメカニズムもありそうだ。こういうのは本来、辞書編纂者がしっかりとやることなんだろうけれど……。
何の話だっけ。そうそうGoProだ。検索してみたら13ドルと出てきて「や、やっす!」と思ったら本体価格ではなくて株価だった。いろいろと勘違いしがちである。