2021年3月19日金曜日

病理の話(516) 人体内に波を作る

このブログは「病理の話」と「それ以外の話」を交互に更新するというスタイルでやっている。カレンダーで休みになっていない日(土日祝日正月以外)は毎日更新。


bloggerというサービスを使っているのだけれど(たしかGoogle系列だ)、1年弱前だったか、ユーザーインターフェースのデザインが変わって、著者としてログインするとこのような画面が現れるようになった。



記事の中に写真や画像を用いているとそれがサムネイル(左側のアイコンのような四角マス)に表示されるんだけれど、ぼくはこのブログであまり図版を用いない。図なしの記事の場合には、その日のタイトルの頭文字がサムネとして表示される。

すると、1日おきに「病」が表示される。病理の話とそれ以外の話を交互に書いているから、どうしてもそうなる。なかなかパンチのある見た目になる。いかにも「ヤンデル氏」の書いたブログではないか!



……と、このように、ジグザグ交互に何かを配置すると、ぼくらはそこに「規則性」であるとか「人の意思」を感じる。しかし、自然界にも……もっと言えば、人体の中にも、規則的に何かがくり返される構造というのは山のようにある。

たとえば、背骨。骨があるところとないところとが交互に接ぎ合わさっているだろう。背中が全部「骨だけ」で出来ていたら、前屈も後屈もできない。骨と骨の間に椎間板というやわらかディスクがあるからこそ、ぼくらはおじぎをしたり胸を張ったり、「見下しすぎて逆に見上げてる(ボア・ハンコック)」ポーズができたりするのだ。

ほかにも、腸の「ひだ」。粘膜がうねうねうねっている。全部が盛り上がるでもなく、全部が盛り下がる(?)でもなく、上がって下がってをくり返す。そうすることで食べ物に触れる部分の面積を増やして、吸収効率を高めている。

指の指紋も、毛穴と皮膚との関係も、肺に空気が入るスペースと細胞や血管があるスペースとの配置も、ざっくりとまとめるならば、「あるとないとが交互に配置される」ことによって成り立っている。



では、人体の中でプラスとマイナスを交互に配置するメカニズムとは、いったいどのようなものか? よく考えるとすごく不思議だ。

カミサマが人体に命令をくだして、「そこのお前は立て、そこのお前は座れ」と、広島カープのスタンド応援スタイルのように、全細胞を制御しているわけでもなかろう。




しばらく考えていると、自然にはそもそもこのデコボコが性質として備わっているのかもな、と思えてくる。

いい例は「波」だ。



海の波は誰に命令されるわけでもなく、物理法則に従ってデコボコを作って進んでいく。「波動」の性質。詳しくは書かないけれど、高まれば次の瞬間には反動で低くなり、低かった場所には周りから水が流れ込んでまた高くなる、というような、「フィードバック」的な現象が起こっている。

(※物理をまじめにやる人は、波をフィードバックのひとことでまとめんなよとお怒りでしょうが、このブログはそれくらいの書き方でご容赦ください)

そして人体をはじめとする生命も、発生の初期段階から、ある種の「波」にさらされている。

それは、受精卵が分裂する段階からスタートしている。細胞の一側にある「何か」が細胞の中を、さらには分裂して増えた細胞同士の間を波のように伝わっていくのだ。この波が、細胞が増えていく過程で「濃度の波」を作り上げる。体の中にたくさんの「波紋」が刻まれていく。

波打ち際では砂が波の模様になる。ぼくはかつて、あれが不思議でしょうがなかった。「海の波はずっと動いているのに、砂にはなぜ、ある瞬間の波を固定したかのような模様が刻まれるのだろう?」このギモンには物理学的に答えることが可能なのだろうが、少なくとも今のぼくがブログレベルできちんと回答を書くことができないくらいには難解だ。

しかし同様の現象が人体の中でも起こっていると想像することだけならば比較的容易である。最初に細胞を揺らめかせた「波」がどんな「海水」なのかはともかく、その波によって生命の各所に「砂浜の波紋」のような痕跡ができて、痕跡の濃淡によってその周りに集まる細胞や間質の種類が変わっていく。こうして、人体の中には規則的な構造があちこちにできあがっていく……。



生命の中で波動が決定的な仕事をしているという話は『波紋と螺旋とフィボナッチ』という本にも詳しいので一読してみてほしい。おお、生命は波だなあ、って思うこと幸いである。人体に含まれる液体の組成は海と同じだとか、「波だ」と「涙」は同じ読みだとか、いろいろ言いたいことはあるが、そういう話は「病理の話」とは違う回に回す。

波紋と螺旋とフィボナッチ (角川ソフィア文庫)   近藤 滋 https://www.amazon.co.jp/dp/4044004595/ref=cm_sw_r_tw_dp_GJRB9FDA1HGCMAKWPSYW