うまくできてんなー、という話をひとつ。
体の一番外側にある「ひふ(皮膚)」は、常にさまざまな刺激にさらされている。蚊が飛んできて刺したり、雨や牛乳が降りかかったりする。ばい菌も付着している。
これらのうち、異物、もしくは敵にあたるものを、体内に駐屯している「警備隊」によって締め出して打ち倒すのがみなさんご存じの「免疫」である。が、じつは「免疫」には、よりシンプルな仕組みがある。細胞を動員するだけが防御システムではない。
「定期的に皮膚を剥がして張り替える」のだ。
皮膚に付着したさまざまな悪いものを、古くなった皮膚ごと捨ててしまえばいい。免疫細胞を毎回出動させるまでもない。人の経営するお店だって、壁紙が汚れて汚くなったら張り替えるだろう。
そう、新陳代謝は免疫の役割を担っている。傷や汚れのついた古い細胞をどんどん捨てて、下から新しい細胞で覆い続けていればよい。ただ、このやり方には重大な弱点がある。
それは、新たな細胞をつくりだすのにエネルギーが必要だということだ。まあそりゃそうだよね。
体内のあらゆる場所の細胞を全開で取り替えまくっていたら、きっと人間はもっと大量に食べて栄養を補給しなければいけなくなる。また、皮膚のように、古くなったらそのまま外に捨てられる部分はよいとしても、体の奥まった部分でどこにも捨てる場所がないところの細胞は、捨てるにも苦労する。
そこで、人体は、新陳代謝をする回数を、場所や細胞によって細かく変えているのだ。
たとえば皮膚、さらには胃腸の粘膜のように、外からやってくる刺激(蚊やばい菌など)と頻繁に触れる部分では新陳代謝を激しくする。胃腸の粘膜に蚊はやってこないジャン、と思うかもしれないが、食べ物は人体にとって間違いなく異物であるし、食べ物の中にばい菌が入っていれば食中毒になるかもしれない。それに、都合のいいことに、消化管の粘膜を新陳代謝でどんどん入れ替えるとき、古くなった細胞はそのまま便として体外に捨てることができる。
一方で、皮膚や粘膜の向こう側にある、脂肪や筋肉、神経、血管などは、そうそう頻繁には新陳代謝させない。外界と刺激と触れる機会は少ないし、古くなった細胞を処理するにはダストシュートだけでなく特殊な機構が必要となるからだ。
人体はどの場所にいる細胞を新陳代謝させまくるかを厳密にコントロールしている。体の表面や消化管などの粘膜で、外部とコミュニケーションしながら日々入れ替わっていくタイプの細胞を、総称して「上皮細胞」と呼ぶ。皮膚には重層扁平上皮細胞が、胃には胃底腺粘膜上皮細胞が、小腸には絨毛/陰窩上皮細胞が存在する。胆道には胆管上皮が、膵臓には膵管上皮が、乳房には乳管上皮があるのだ。「上っつらを覆って外部とやりとりする」という意味で、上皮と言うのだろう。いやーよくできてんな。