2022年3月25日金曜日

ワイルドワイルドだろうだろう

「ギスギスすんなよ」と言うときの「ギスギス」はぼくにとっては建物がきしむ音のイメージだ。


「社宅」的な古いアパートに暮らす夫婦が、些細なことで言い争いをする姿を、窓の外に浮遊しているぼくが眺めているシーンを思い浮かべてほしい。どんなシーンだよとつっこまれそうだがかまわずに話を先に進める。リビングで、お互いを見ないままに口論をしたあとに、片方が部屋を離れるときに、壁やドアがきしむ。ギス……ギス……。そしてもう一人はソファに沈み込む。ギス……ギス……。指先でつまんだ目頭からも音がする。ギス…………。ギス…………。


そんなイメージだ。でもこれなんかおかしいことになっている。

一般的にはギスギスとは表現しない場面ばかりだったな。たとえば家がきしむ音、普通はギシギシと表現するだろう。鼻の間を指で揉んでもギスギスとは言わない。グイグイとかググっという感じ。

「ギスギス」という音がするシチュエーションは別にある気がする。それっていつだ?

ぱっと思い付くのは、試薬などを郵送する際に使う、発泡スチロール製の箱。あれのフタをしめるときに「ギスッ」と言う。ぼくにとって一番ギスギスしい瞬間は発泡スチロールのフタをしめるとき。

あとは……なんだろうな。

単純にものとものとをくっつけて、摩擦で音をさせるだけだと、ギスとは鳴らないように感じる。主観だけど、こういうのは、同じ言葉を使っている者同士ではある程度共有できる感覚だろう。

石と石が擦れ合ってもギスとはならない。ガリと言う。紙をいっぱい積み上げたものがずり落ちるときの音はサアバササア。古くなった服を袋に入れて捨てるときはムギである。満員電車で人と人とが押し合いへし合いしているときはカワイソウだ。

何かと何かが押しつけ合って、そこにずれがあって、多少のひっかかりがありつつ、何度も接着面ですべって、有声音と無声音の間にあるような、鼓膜から鼠径に向かって不快感がおしよせるような高音域の音が出るとき、「ギスギス」という言葉を使いたくなるのだと思う。今のところ、発泡スチロール以外の物性でこれを表現できるものが思い浮かばない。




……今の、

「何かと何かが押しつけ合って、そこにずれがあって、多少のひっかかりがありつつ、何度も接着面ですべって、有声音と無声音の間にあるような、鼓膜から鼠径に向かって不快感がおしよせるような高音域の音」

をちょっといじって、

「誰かと誰かが意見を押しつけ合って、そこにずれがあって、多少のひっかかりがありつつ、何度も接着面ですべって、有声音と無声音の間にあるような、鼓膜から鼠径に向かって不快感がおしよせるような」

とすると、「ギスギスすんなよ」のニュアンスがけっこうきちんと伝わるのがおもしろいなあと思う。