誰がおもしろいかはぜんぜんわかんないけどぼくがおもしろい話をする。
胃カメラや大腸カメラを使って、粘膜にある病気を切り取ってくる治療法がある。病気がたとえ「がん」であっても、小さくて周りにしみ込みすぎていなければ、この方法で、おおがかりな手術をやらずとも、臓器をまるごと取らずとも、治せる。便利だ。
こうやって取ってきた粘膜を、病理医が調べる。
病気がどのようなものなのかをきちんと見て、再発のリスクが高そうか、じつはこっそり周りにしみ込んではいないか、などを検討する。
まず、取ってきた粘膜を一眼レフでばっちり写真に収める。このとき、マクロレンズ(花とか虫などを接写して撮るやつ)を用いて、なるべくきれいに大きく映すのが大切だ。
黄色い部分は内視鏡医が病気だと思っている領域。白い部分は「正常の粘膜」。病気だけをギリギリ取ると取り残したときに「再発」してしまうので、のりしろというか余白というか、とにかく、病気の周りのなんでもない粘膜をも数ミリ一緒に取ってくるのがコツである。
矢印をつけた部分だけ色が少し違う。
この部分は、内視鏡医もすごく気にしていた。カメラで見たときにも、病気の端っこの部分だけ、様相がちがっていたのだ。
だったらそこにはきっと何かが起こっている。
それを解き明かすために顕微鏡で観察しよう。ただし、直接粘膜を顕微鏡に載せてしまっては、拡大倍率をあまり上げられない。虫メガネ的な拡大では光量が足りないので拡大に限度があるのだ。何百倍にも拡大して観察しようと思えば、検体をうすーく切って、下から強い光をあてて、透過光を見る方法でなければうまくいかない。
そこで検体を処理する。具体的には、取ってきた検体を、短冊状に細かく切る。
こんなかんじだ。
これを臨床検査技師が、カンナのような道具でうすーくペラペラに切って、ガラスプレパラートに載せて色を付けることで、ようやく顕微鏡で観察できるようになるのだ!
……いや、ちょっと待ってほしい。上の図、お気づきだろうか?
つまり、顕微鏡で観察することができない。
病理診断は「観察したい場所を的確に標本にする」ことからスタートする。いつもこうやって短冊に切ってるから大丈夫だろう、ではだめなのだ。病変をちゃんと見て、「ここに勘所があるだろうな」と予測して標本を切らないといけない。
たとえば今回の例ならこのように切るべきなのである。
一番見たいオレンジ矢印の部分(興味領域とか関心領域と言う)を通るように切る。しかも、病気の部分をなるべく多く観察できるように向きに気を付けて少しななめに。さらには、病気の情報を少しでも多く見るために、オレンジ矢印の部分を中心に、「観音開き」にすることで、1つの切り口の両側を見る。
こうすれば、内視鏡医も病理医も、プレパラートからより多くの情報を得ることができるのだ。
えっ地味……って思った?
でも、これをやってない病理医は、診断は正確かもしれないけれど、臨床医の細やかな疑問に答えられないってことだから、すごく大事なんですよ。ぼくはおもしろいと思うなあ。